#069 なぜ投資のプロはサルに負けるのか(藤沢 和希)-第二章①
第二章は以下となる。本日は1~3について、解説したいと思う
・1.投資と投機とギャンブル ←本日
・2.リスクとリターンの意味するところ ←本日
・3.丁半博打のリスク特性 ←本日
・4.無慈悲な収奪システム「競馬」
・5.最強のビジネスモデル「宝くじ」
・6.株式投資のリスクとリターン
・7.「ギャンブル」ではロマンを売る
・8.リスク・プレミアムという概念
・9.株式市場全体のリスクプレミアムとは
・10.さあ、投資をしよう!
■1.投資と投機とギャンブル
- 投資と投機の違い(一般的に言われるもの)
- 投資とは企業の価値の上昇に賭ける事で、投機とは価格変動に賭ける事
- 投資は長期的に保有する事で、投機は短期間に売買を繰り返す事
- 投資はプラスサムゲームだけど、投機はゼロサムゲーム
というのが、一般的に言われることとのこと。確かにそうだと思うし、そのように聞いてきた。
結果として
- 投資が社会的に偉い物で、投機がギャンブルみたいに程度の低いものとして説明されることが多い
とのこと。しかしながら、
- 企業の価値が上昇すれば、株価も自然と上昇して、予想が当たった投資家が報われるから頑張って投資する
という意味では、
- 投資家も価格変動に賭けている
とも言えるとのこと。確かにそうだ。また、長期と短期の違いについても以下のように述べている
- 長期と短期の境目がどこにあるのか
- 投資の本には長期投資こそが王道で、デイトレーディングなどの短期売買はギャンブルと同じと解説されることが多い
- 長期投資はプラスサム・ゲームと言うのがその根拠
- ただ、そもそも長期投資がプラスサム・ゲームというのは、米国の株式市場が過去何度か暴落しても、長い目で見れば上昇したからもうかったというのを根拠にしているに過ぎない
- 今後も本当に株式市場が上昇し続けるかは、神様でない限り分からない
とのこと。確かにそうだ。実際に日本の事例を引き合いに出している:
- 米国の市場のデータを基に作られた長期投資こそ王道だという資産運用の理論を信じて、1990年当たりのバブル崩壊直後に日本株式市場に投資した人は、長期的に大損した
- 土地バブル崩壊後の日本の15年以上の長期低迷を見れば、長期投資もリスクがいっぱいだということは火を見るよりも明らか(以下)

確かに、1990年以降のTOPIX(日本株式全体のインデックス)は、1990年を100とすると、その後の15年で約半分程度に下がってしまっている。
筆者曰く、投資と投機の違いについて以下のように述べている:
- はっきりいうと、投資と投機に区別などない
- 区別してもしなくてもどっちでもよい
- 必死に説明しているのは、金融機関の関係者
- 投資はギャンブルと違って、社会的に立派なものだと説明して、金融商品を一般人に売らなけらばいけない
- デイトレーディングなどの短期売買はギャンブルのイメージが強く、そういう投機的な株の売買と投資は全然違うことを説明して、儲かる投資のすばらしさをアピールしている
とのこと。確かに金融機関の人達は、区別する必要はあるだろう。さらには
- 投資も投機もただの確率のゲーム
- 確実にもうかる方法などない
- 確実に儲けたければ、国債や定期預金などでスズメの涙のどの金利を稼ぐしかない
- それであっても、政府や中央銀行が金利以上のインフレを起こさないことに賭けるギャンブルであることは変わらない
- 確実にもうかる方法などない
とのこと。投資も投機も、なんなら国債や定期預金も、全て確実ではなくギャンブルであることには変わらない、ということだ。しかしながら、
- 競馬や宝くじを勧めているわけではない
- やはり投資を勧める
- 株式などの資産に長期投資することが、手数料や税金の面から有利なことが多いから
- 長期投資では、証券会社に支払う手数料は、初回購入時の一回だけ
- 金融商品を売って現金化しなければ、税金を支払う必要もないから
- やはり投資を勧める
とのこと。同じ”ギャンブル”なのであれば、競馬や宝くじより、投資、特に長期投資の方がよいということだ。競馬や宝くじなどのギャンブルについては
- (競馬や宝くじなどの)ギャンブルはやらない方がよい
- 宝くじや競馬はゲームとして全然割に合わない
- デイトレーディングは微妙
- 手数料や証券税制から見ると割に合わないことが多い
と述べている。理由は、「割に合わない」からである。この「割に合わない」というのが、リスクとリターンの考え方ということだ
- 確率のゲームを理解するのに、必要なのがリスクとリターンの考え方
- リスクとリターンでシンプルに考えれば、少なくとも変な投資話に騙されない
■2.リスクとリターンの意味するところ
リスクとリターンについて、以下のように述べている
- リスクとリターンは投資をする為に、絶対に理解が必要な概念
- リスクもリターンも日本語に対応する言葉はない
- 良くある間違いは、リスクは「損する」ことで、リターンは「得する」ことと言う理解
- リスクは「危険」という意味でもない
- リスクとは「不確実性」のことで、得することも損することもありうる、という将来が不確定な状況を表す言葉
- リターンとは、状況によって2つの意味がある
- 1)これから投資をする状況では、未来のことなので結果は分からないが、平均的にどれくらい得するのかを表す(「期待リターン」と呼ばれる)
- 2)投資した結果、得られた成果を事後的に評価する状況では、実際にどれだけ得をしたかを表す(「実現リターン」と呼ばれる)
とのこと。確かに「リスク」はファイナンスで使う意味と、その他(例えばプロジェクト遂行上の「リスク」という意味)で使う場合では、意味合いが異なる。「得することも損することもありうる」というのは、しっかり言語化されていて、とても勉強になった。
以下、リスクの概念を図解したもの
- リスクの概念は図で考えるととても分かり易い

- 横軸がリターン、縦軸がそのリターンが実現する「確率」を表している
- 正規分布をつかって描いたもの
- 注)正規分布とは「確率論や統計学で用いられる連続的な変数に関する確率分布の一つである。データが平均値の付近に集積するような分布を表す。」(Wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%A3%E8%A6%8F%E5%88%86%E5%B8%83)
- 正規分布は、平均値と標準偏差の二つの変数で完全に記述できる便利なツール
- 注)標準偏差とは「データや確率変数の、平均値からの散らばり具合(ばらつき)を表す指標の一つである。標準偏差を2乗したのが分散であり、従って、標準偏差は分散の非負の平方根である」(Wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%99%E6%BA%96%E5%81%8F%E5%B7%AE)
- 正規分布は、ファイナンスなどさまざまな分野で頻繁に使われる
とのこと。大学の統計学で勉強した正規分布だが、ここで出て来た。
その時は、上から球をたくさん落とすと、パチンコみたいな釘を通ると、必ずベルカーブ(ベルの形をした形式)になる、と言ったものだった。
探してみたら、似たようなものが有ったので、共有したい(Galton Boardと呼ばれるようだ:https://youtu.be/6YDHBFVIvIs)。
以下、上記正規分布における解説となる:
- 実現リターンが5%~15%の間にはいる確率は、5%~15%の部分の面積を、グラフ全体の面積で割れば求められる
- 正規分布では、平均値はグラフの中心の位置で、最も起こる確率が高くなる(この位置を「期待値」という)
- 標準偏差は、グラフの広がり具合を表す
- 期待値ー標準偏差から、期待値+標準偏差の範囲に、約3分の2の確率でおさまるようになっている
- 標準偏差が大きくなればなるほど、分布が広がり、実現リターンの不確実性、つまりリスクが大きくなる
- このグラフでは、平均値、つまり期待リターンを5%、標準偏差を20%として確率分布が書かれている
なるほど、約3分の2というのは、標準偏差(σシグマ)が1の場合は、68%である為、そのように述べているのだろう。

また、興味深かったのは、よく品質管理などでGM(General Motors)がシックスシグマという品質基準を設けた!などと言っていることから、標準偏差が高い方がよい、というイメージがあったのだが、ことファイナンスに関しては、「ばらつき」が大きくなるので、むしろ「良くないこと」なのだ、と気が付いた
参考)シックスシグマ(https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1805/25/news013.html)

±σ(σ区間):68.3%
±2σ(2σ区間):95.4%
±3σ(3σ区間):99.7%
±6σ(6σ区間):99.9997%
- 本例の正規分布では、期待リターン±標準偏差の範囲に、約3分の2の確率で実現されるリターンが収まる
- この場合、5%±20%、つまりマイナス15%からプラス25%の間に約3分の2の確率で、実現リターンが収まる
- 100万円賭けた場合、期待値の105万円±20万円である、85万円から125万円の間の結果になる確率が、3分の2位となる
- なお、85万円以下になってしまう確率は6分の1。125万円以上になる確率も6分の1となる
- あくまで確率なので、100万円かけて300万円になって返ってくることも、70万円失い30万円しか返ってこないことも、わずかな確率だがある(グラフの右端や左端)
とのこと。ちょっとパーセンテージにパーセンテージを足し引きするので、若干分かりにくいが(笑)、期待値に対してプラスマイナスでどの程度増減する「可能性があるか」を表している、ということだ。3分の2の確率で、期待値プラスマイナス5%以内になるよ、ということを指している。
あくまで「可能性」なので、それ以外の可能性も(低いが)あり、残りの3分の1をプラス側とマイナス側でそれぞれ6分の1ずつ分けると、6分の1の確率で、プラスマイナス5%を超えるよ、ということを指している。つまり
- リスクとは、将来の不確実な実現リターンが、どの程度不確実なのかを表す概念
- リスクが大きいということは、大きな損をする可能性もあるけれども、大きな得をする可能性も秘めている
ということである。確かにこの正規分布の図は分かり易かった。
なお、リスクと呼ばないものの説明もしている
- 絶対に損するものは「リスク」と呼ばない
- 絶対に損するなら初めからしなければよいから
- 損するかもしれないが、うまくいったらこんなに得するかもしれない
- その将来の分からなさ加減が「リスク」
ということである。うん、非常に分かり易い!ちなみに
- 今回は左右対称の正規分布でリスクを表したが、投資対象によりリスクの形は色々変わる
とのこと。その為、
- 投資とは、リスクの形と期待リターンを考えて、意思決定するプロセス
であるとのこと。とっても腑に落ちた。
■3.丁半博打のリスク特性
一方で、「ギャンブル」が何故「割に合わないか」の説明もしている。
- 例)ギャンブルの中で最も単純な丁半博打[説明]
- さいころを二つ振って、出た目の合計が偶数か奇数かを当てるゲーム(偶数が丁、奇数が半)
- 偶数と奇数のでる確率は50%
- 外れたら全額没収で、当たったらかけたお金の同額からテラ銭を引いたものがもらえる
- テラ銭とは賭博場を運営する胴元に治めるお金で、10%が相場
- 1万円かけてあたると、1万円からテラ銭10% 1,000円を引いた9,000円がもらえ、19,000円になる
- このゲームのリスク
- 50%の確率で、賭けたお金がなくなる為、実現リターンはマイナス100%
- 残りの50%の確率で、賭けたお金が(テラ銭を払う前は)2倍になり、テラ銭10%を引くと90%となる
- その図が以下

- このゲームの期待リターン
- 期待リターンは、実現しうるリターンにその確率をかけて足し合わせればよい
- マイナス100%とプラス90%をそれぞれ2で割って(50%をかけて)、足し合わせればよい
- -50%+45%=-5%。つまり期待リターンはマイナス5%となる
- 1万円賭けると、平均的には9,500円返ってくる計算
- 平均リターンがマイナスなので、何回も何回も賭けていれば、そのうちスッテンテンになる
とのこと。
うん、これは確かに「割に合わない」。前述のボールを落とすGalton Boardを思い浮かべると、右端と左端に寄り、やや左端が多くなる、という結果になるのであろう。。これは数をこなせばこなすほど、統計の理論値に近づくはずである。
■まとめ
本日は
・1.投資と投機とギャンブル
・2.リスクとリターンの意味するところ
・3.丁半博打のリスク特性
について、解説をした。
特に「リスク」の「ファイナンスにおける」概念が、これまでと異なっており、大変勉強になった。
また、「ギャンブル」(賭博)が何故割に合わないのか、きちんと科学的に説明がなされ、とても腑に落ちた。
明日は4.以降を解説していきたいと思う。
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