#072 なぜ投資のプロはサルに負けるのか(藤沢 和希)-第二章③
第二章のうち、本日は最後7~10について、解説したいと思う
・1.投資と投機とギャンブル
・2.リスクとリターンの意味するところ
・3.丁半博打のリスク特性
・4.無慈悲な収奪システム「競馬」
・5.最強のビジネスモデル「宝くじ」
・6.株式投資のリスクとリターン
・7.「ギャンブル」ではロマンを売る ←本日
・8.リスク・プレミアムという概念 ←本日
・9.株式市場全体のリスクプレミアムとは ←本日
・10.さあ、投資をしよう! ←本日
■7.「ギャンブル」ではロマンを売る
これまで話してきたギャンブルを、ではどのように人に売るか、説明している:
- ギャンブルや宝くじでは、ファイナンシャル・インテリジェンスが少々不足している人達から、どうやってお金をむしり取るかがキモになる
- その為、リスクやリターンの話は無視して、ロマンや夢を売るのがよい
- 競馬や宝くじのCMは広告代理店のトップクリエーターが頭脳を振り絞って、リスクとリターンの話を隠蔽し、ロマンや夢を掻き立てる為に作っている
- ファイナンシャル・インテリジェンスが低い人はあまりお金を持っていない
- その為、個々からの取れる金額は微々たるもの
- しかしながら、人数が多い為総額では膨大
- 昔も、今も、今後もファイナンシャル・インテリジェンスがない人がいる
- その為、ギャンブルや宝くじがなくなることはない
- ギャンブルや宝くじと違って、株式市場は経済合理的に行動することを強いられている
- 投資のプロが激しく戦っている
- その為、リスクに対して適切な期待リターンになるように、常に株価が設定されている
とのこと。
ここまでさんざん話してきた、ギャンブルと、株式投資は、ここにきて「違う」という説明になっている。
つまり株式市場は、常に投資のプロが戦っている為、リスクとリターンが(自然に)妥当な位置に設定されているのに対して、ギャンブルは「常に」胴元が儲かる(=購入者が損する)仕組みになっていることに、違いがあるという意図と理解した。
株式も損することはあるが、「常に」ではなく、且つ損する確率が高いほど、得する確率も高いようにうまく(市場原理で)設定されている、ということである。
実に面白い。投資のプロは材料を元に売買を繰り返し、自身やクライアントの利益を上げようとしているが、彼ら自身の行動そのものが、株式市場を適正に保つ仕組みに「加担」している、というのだ。
まさに、ブッダの掌で踊らされている孫悟空状態だ(笑)。
■8.リスク・プレミアムという概念
- この段階で、投資というゲームの仕組みの半分を理解
- 残りの半分は現代ポートフォリオ理論
- 不動産なら不動産の、株式なら株式の実務的な本を読んで勉強すればよい
とのこと。
現代ポートフォリオ理論はWikipediaを見たが
「現代ポートフォリオ理論(げんだいポートフォリオりろん、英: Modern portfolio theory, MPT)とは、金融資産への投資比率(ポートフォリオ)を決定する理論。1952年にハリー・マーコウィッツによって発表された論文[1]を端緒として研究が進められた。投資におけるポートフォリオの収益率の平均 (期待値) と分散のみをコントロールするという特徴がある。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AA%E3%82%AA%E7%90%86%E8%AB%96)
うーむ。わからん!
続きに、「現代ポートフォリオ理論から発展した資産価格決定モデルとして資本資産価格モデル(英: capital asset pricing model, CAPM)がある。」とある。
CAPMはファイナンスの授業で習ったぞ!こんな公式だ
・ はリスク資産の期待収益率
・ は無リスク資産の利子率
・ は市場ポートフォリオと呼ばれる金融市場に存在する全てのリスクのある金融資産の時価総額加重平均ポートフォリオの期待収益率
・ はマーケットリスクプレミアムに対する資産
のリスクプレミアムの感応度であり
を満たす。ただし、
は資産
の収益率
と市場ポートフォリオの収益率
の共分散で、
は市場ポートフォリオの収益率の分散である。この
のことを資産
のベータ(英: beta)と呼ぶ。
本内容は、今セクションとは直接関係がないので、深堀はしないで置く(というかできない)。
以下、株式市場の特徴について述べられている:
- 素人は簡単に割安なお買い得商品を見つけられない
- プロが瞬く間に買ったり、売ったりする
- 大体の金融商品は適正な価格に落ち着いており、リスクとリターンは釣り合っている
- つまり、うまい儲け話などない
とのこと。この件は前のセクションでも説明されていた。
次に、リスクプレミアムの説明だ:
- リスク・プレミアムとは
- ある資産の期待リターンから、安全資産である国債の利回りを引いたもの
- ある程度の期待リターンがないと、損失の可能性がある資産に投資しない
- つまり、リスクのある資産を購入することに対する「ご褒美」
とのこと。これは、CAPMの公式のE[Rm](期待リターン)-Rf(リスクフリーレート)に当てはまるのではないか(要確認だが)
リスクとリターンの関係について、図解している:
- ハイリスク・ハイリターン
- リスクが大きくなると、リスク・プレミアムも大きくなり、期待リターンも上がっていく

上記のように、期待リターンが増える(=右にずれる)ほど、確率が下がり(=高さが低くなり)、リスク(標準偏差)値が上がる(=横に広がる)。
言い換えると、リスク(標準偏差)値が上がる(=横に広がる)と、確率が下がる(=高さが低くなる)為、期待リターンが増やす必要がある(=右にずらす必要がある)、ということだ。
では、リスク・プレミアムはどのように決まっていくか、の説明がある:
- リスク・プレミアムはどのように決定されるか
- 「市場」で決まる
- 株を買った場合
- 会社の将来の利益の総額に対して、株価が適正なリスク・プレミアムになるように決まっていく
- 仮に会社の将来の利益予想が変わらない場合
- 利益をもらう権利である株の値段が下がれば下がるほど、期待リターンは上がる(買値が低くなり、売値が一定の場合、儲けが増える為)
- つまり、株価が下がれば下がるほど、高いリスク・プレミアムが乗る
- 株の値段が上がり過ぎると、リスク・プレミアムは小さくなる
- 利益をもらう権利である株の値段が下がれば下がるほど、期待リターンは上がる(買値が低くなり、売値が一定の場合、儲けが増える為)
- ただし「将来」の利益は誰にも分らない
- 投資家が将来の不確実性=リスクを恐れれば恐れるほど、将来の利益予想に対して、株価が下がる
- すなわち、高いリスク・プレミアムが乗る
- 逆に投資家が、リスクに対して積極的になると
- 要求するリスク・プレミアムが下がり、株価が上がる(利益の予想が一定の場合)
- 投資家が将来の不確実性=リスクを恐れれば恐れるほど、将来の利益予想に対して、株価が下がる
- つまり、リスク・プレミアムを決めているのは、投資家がどのようなリスクをどれくらい嫌うか、という「センチメント」(感情)である
とのこと。
なかなかここは、理解するのが難しい箇所であった。そもそも用語が、「リスク・プレミアム」で、「リスク」なのか「プレミアム」なのかが良く分からなかった。
しかし、ファイナンスでいう「リスク」はあくまで「ボラティリティ」のことを指しているので、ここでいう「リスク・プレミアム」というのは、いわゆる我々が「リスク」という意味合いで使用している「失うかもしれない金額の大きさと確率」のことを指していると考えて、よいであろう。
そして、それに見合うだけの「期待リターン」がないと誰も投資しない訳だが、プロの投資家のやり取りのおかげで、「リスク・プレミアム」と「期待リターン」が合うように市場原理が動いている、ということで理解した。
■9.株式市場全体のリスクプレミアムとは
前セクションで、リスク(=標準偏差)が上がれば、期待リターンも上げるべき(そうしないと誰も投資しなくなってしまう)と言及したが、以下はそうでないケースの説明だ。
- リスクが上がれば、それに応じて期待リターンが必ず上がるわけでもない
- 過去のライブドア株のようなハイ・ボラティリティ銘柄のような、投資家のおもちゃになっているもの
- 必ずしも会社の利益を予想して適正なリスク・プレミアムで割り引いて株価を決定するというプロセスで、株価が形成されていない
という場合は、必ずしも連動していないとのこと。また、個別銘柄ではなく市場全体のリスクについては:
- 市場リスク(=マーケット全体の価格変動リスク)には、大きなリスク・プレミアムが乗る
- インデックス・ファンドは、市場リスクそのものに対する投資
とのこと。インデックス・ファンドは私も保持しているが、つまり市場リスクに対してそのリスクを許容し、それに見合った期待収益を得ようとしている、ということだ。
また、市場リスク以外にも別のリスクがある:
- 市場リスク以外のリスク
- 流動性リスク:証券を換金しようとしても、買い手が見つからないリスク
- 信用リスク:企業の倒産などで債務不履行に陥ってしまうリスク
とのこと。
なお、市場全体に対するリスク・プレミアムについて説明されている
- 株式投資の場合
- 市場リスクに対して支払われるリスク・プレミアムは年率約3%~6%くらいと言われている
- つまり、インデックス・ファンドに投資すれば、国債の利回りプラス3%~6%の市場リスクを受け入れる報酬として期待しても良い
- リターンの確率分布のグラフが、国債の利回りに対し右に3%~6%ずれるだけ
- 国債の利回りを1%とすると、どんぶり勘定で株式市場の期待リターンは5%くらい
- つまり、株式市場に投資すれば、平均的には財産が大体5%増えるということ
- 期待リターン5%を考えると、投資信託の販売手数料3%や、信託報酬の2%がいかに貴重なリスク・プレミアムを全て吹き飛ばしてしまうほど大きなものかが分かる(ゼロになってしまう)
とのこと。大変興味深い。インデックス・ファンドの話もさることながら、投資信託の販売手数料が3%、信託報酬の2%が、いかに高いかを再認識させられた。
本文に記載はなかったが、不動産売買の仲介業者への販売・購入手数料も3%+6万円である。
不動産の場合は、期待収益率は物によっては10~20%などもある為、一概には言えないが、都心マンションなどであれば、一桁台3,000円くらいで購入したら、5%程度の利回りのものもあるであろう。
だとすると、この手数料報酬は、割に合わない。
幸い私が購入した地域は、100万点弱で購入し、利回り約45%程度で回しているので、購入手数料3%、印紙代・登記手続き10万円程度、ローン手数料0.5%/年でも、利回りがゼロになるということはなさそうだ。
■10.さあ、投資をしよう!
- うまい投資話などないことを学んだ
- 確率的な視点で物事をみることの重要性を理解した
- ギャンブルや宝くじはお金をむしり取られることが宿命づけられている
- 一方で、投資は報われる可能性が高いゲームであることが分かった
- リスク・プレミアムの概念を学んだ
- 株式市場などでは、リスクを取る投資家は、リスク・プレミアムという形で、報いられる
- 投資は、コイン投げのように偶然に大きく左右される確率のゲーム
- 必勝法は存在しない
- 代わりに、確実に「損」する金融商品はたくさん売られている
- 何の得にもならないセミナーが各地で開催されている
- 何も学べない教材が通販で売られている
- 競馬や宝くじは期待値の意味が理解できない人から、お金をむしり取る事で運営されている
- 金融業界も、ファイナンシャル・インテリジェンスの不足したひとたちから、お金を巻き上げている
ということだ。
色々話したが、結局は株式をはじめとする投資をせよ、というのがメッセージであった。
■まとめ
・「ギャンブル」では、リスクやリターンを無視して、ロマンや夢を売るのが、ファイナンシャル・インテリジェンスが不足している人からお金をむしり取れるので、好都合である
・リスク・プレミアムとは、期待リターンから、安全資産である国債の利回りを引いたもの
・リスク(ブレ)が大きくなればなるほど、リスク・プレミアムも大きくなり、それに見合うだけの期待リターンを求めるようになる
・株式市場全体のリスク・プレミアムはインデックス・ファンドで投資できる
・ギャンブルと異なり、投資は報われる可能性が高いゲーム
・但し投資は偶然に大きく左右される確率のゲームの為、必勝法は存在しない
以上となります。
明日は第3章「株価とは何か?」について解説したいと思う。
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