#075 なぜ投資のプロはサルに負けるのか(藤沢 和希)-第三章③
本日は前回に引き続き、第三章の3回目となる。7~9について解説していきたい
・1. 金利はファイナンスの根源的な概念
・2. 明日のお金よりも今日のお金は価値が高い
・3. 現在価値とディスカウント・レート
・4. DCFモデルで債権の価値を計算する
・5. マンションの価値を計算する
・6. 人間の価値を計算する「人的資本の考え方」
・7. 人類最大の発明「株式会社」 ←本日
・8. 株主と債権者 ←本日
・9. 株式の価値の計算しよう ←本日
・10. 価格と価値の違いを見極められれば投資で勝てる
・11. DCFモデルは机上の空論?
■7.人類最大の発明「株式会社」
ここまで、債券、マンション、サラリーマン年収の現在価値の算定の仕方を説明してきたが、いよいよ株式の現在価値の算定の仕方の説明となる。
その前に、そもそも株式会社がどのようにして作られたか、の簡単な歴史が説明されている:
- 株式の真の価値の計算方法
- その説明の前に、まず株式会社の歴史
- 1602年オランダ東インド会社が、人類最初の株式会社
- 15~17世紀はヨーロッパ人が新大陸を発見して行った
- 株式会社という魔法の仕組みを手に入れたヨーロッパ人により商業革命が生まれた
- リスクの高いプロジェクト
- 目立つことをして大金持ちになって女にもてたいと思っている冒険家を、人生暇つぶしのような大金持ちが支援する形でプロジェクトが開始
- 冒険家や平船員は嵐に会ったり、海賊に有ったり、船上で伝染病が流行ったりして、コロコロ死んだ
- 一方、数多く試すと本当に新大陸を発見して帰ってくる冒険家も出て来た
- しかし船を一隻作るには、莫大な資金が必要
- 失敗したらすべてが水の泡
- 誰かが素晴らしいアイデアを思い付いた
- 船を建造する資金を皆で出資してみる
- 船が金銀財宝や香辛料を持ち帰ってきたときは、出資金に応じてそれらを山分けする
- 船員が全員死ぬことがあっても、出資した金額がすべてなくなるだけで、それ以上の損失はかぶらなくてもよい
- 有限責任の仕組み
- 冒険家は命を懸ける代わりに、出資者と給料の交渉をした
- 株式会社の卵のような仕組みが生まれた
- アイデアと情熱しか持たない一文無しでも、金持ちから出資金を集めて、船を作って大海原に飛び出していける
- 出資者は最悪の場合でも、出資金がパーになるだけという限定されたリスクの代わりに、無限大の利益の可能性を手に入れることが出来た
- デリバティブでいう「コールオプション」の仕組みと全く一緒
- 金持ちは、複数のプロジェクトに少しずつ投資することで、さらにリスクを抑えることが出来た
- 太郎という冒険家が海賊に襲われて死んでも、次郎という冒険家が香辛料を持って帰れば、トータルでは儲けられるという考え方
- 現代のポートフォリオ理論のリスク分散効果
- 更に革新的な進歩
- それまでは一度出資をしたら、プロジェクトから降りることができず、途中から参加することも出来なかった
- あるタイミングから、継続的に行う仕組みが出来た
- 複数のプロジェクトをさまざまなチームが協力して、継続的に遂行していく
- 今の会社のような組織
- 継続する仕組みでは、プロジェクト終了後に山分けすることができない
- その為、1年に1回利益を出資者に分配
- 会計という技術が出来た
- いくら出資したかを書いた証書を「株券」と呼んだ
- 「株券」は自由に売買が出来た
- 売買する場所が発展し、株式市場となった
- 「共同出資」「有限責任」「永続性」を兼ね備えた、人類最初の株式会社「オランダ東インド会社」が設立された
- 株式会社の仕組みで、コールオプションによるリスクヘッジと、ポートフォリオによるリスク分散を手に入れたヨーロッパの資産家たち
- ハイリスクな巨大プロジェクトを次から次に行う
- 人間の恐怖と欲望を、イノベーションに変換する魔法のリスク分配システムを知ったヨーロッパ人により、商業革命が生まれ、7つの海を支配する大帝国が生まれた
- アジア諸国など、この時代はファイナンシャル・インテリジェンスがないことで、民族滅亡にまでつながった
- 資本とファイナンシャル・インテリジェンスを兼ね備えた金持ちが、更に巨万の富を築く一方
- 両方を持たないものは、自らの命をリスクにさらして、資本家に奉仕するしかなかった
- 資本家は自らの命をリスクにさらさない代わりに、自分のお金をリスクにさらしている
- 資本家に奉仕する立場の冒険家も、命を懸けるギャンブルに勝利すれば、富と名声を手に入れることが出来た
- これが資本主義である
とのこと。
株式会社の歴史は、そのまま資本主義経済の歴史であり、現代まで引き継がれている「資本家」と「労働者」の違いといえるだろう。
「資本家」は「金」をリスクにさらすし、「労働者」は「時間」すなわち「命」をリスクにさらして、リターンを得ている。
言い換えれば、「金」をリスクにさらすことが出来れば、「時間」や「命」をリスクにさらす必要はない、ということだ。
「労働者」はそのことが分かっていないか、わかっているが「金」をリスクにさらす「勇気」を持てず、「時間」と「命」をリスクにさらして一生を終えていく。
以前、ロバート・キヨサキ氏の「金持ち父さん貧乏父さん」でも「勤め人」は「ラットレース」に巻き込まれ、くるくる回る車輪の中を全速力で走っているようなものだ、と述べていた。
リスクにさらすだけの「金」と「勇気」を持てば、ラットレースから抜け出すことが出来るのに、ということが、この株式会社の歴史からも良く分かる。
特に、「プット・オプション」と同じ仕組みの、「有限責任」と言うものは、ローリスク・ハイリターンと言わざるを得ない。
これを知っている人は、最大限に活用できるが、知らない人は、活用しようという考えにも至らない。
やはり、「無知の知」という「知らないということを知る事」が、如何に大事かを、思い知らされた。
■8.株主と債権者
本セクションでは株式会社における、株主の位置づけについて説明をしている:
- 株式の価値の計算は、債券や不動産より難しい
- 理由は、より多くのステークホルダーがいるから(例:株主のみでなく、銀行などの債権者も会社に資金を提供しているから)
- 株主は成功報酬
- 事業が失敗すればひどい損失を被るが、逆にうまく行けば大金持ちになれる
- 債権者は会社にお金を貸しているだけ
- 約束した金利と元本を返してもらえるかが問題
- 損益計算書の利益は全て株主のもの
- 最終利益を配当として株主に渡すか、設備投資に回すか、M&Aによる他の会社の買収資金にするか
- 本来は、株主の利益のために決定されるべき
- 実際は、まず取引先にお金を払い
- 次に従業員にお金を払い
- 次にお金を貸してくれた債権者に利子のお金を払い
- 次に国がピンハネして
- 最後が株主
- 株主の立場が一番弱い
とのこと。
ここでは、一転して株主は他の債権者や従業員よりも、お金をもらう順序として一番最後=弱い、という説明となっている。
これまで「資本家」=最強と言ったニュアンスであった為、若干ここでは尻すぼみしている(笑)
■9.株式の価値の計算しよう
ようやく(笑)株式の計算の話となる。
- まず前提として、会社は、
- お金を貸してくれた銀行や、
- 社債を買ってくれた債権者、
- 資本金を出してくれた株主
- で成り立っている(以下)
- つまり、会社は株主の所有物
- 役員を選ぶ、最終利益をどう処分するか
- 重要な事項は、株主総会で多数決で決定される
- 民主主義として
- 選挙は一人一票だが、
- 株主総会は一株一票である
- つまり、お金を出すほど発言力が増す
- 50%以上保有すれば重要事項を全て自分で決めることが出来る
- 会社がつぶれた場合
- 債権者は会社清算後の財産を山分け
- 株主は債権者の後
- たいていは出資した分はパーになる
- 取引先や従業員、債権者の取り分は、あらかじめ契約により決まっている
- 株主は利益を上げた時だけ、分け前がもらえる
- 株主の価値の計算方法(代表的なもの3つ)
<1.配当割引モデル>
- 株主だけに注目する方法
- 株主は配当と株の値上がりから利益を得る
- 配当をインカム・ゲイン
- 値上がり益をキャピタル・ゲイン
- 株主が株を永久に保有する場合、利益は配当のみとなる
- 株は、将来のクーポンがいくらになるかわからない、満期が永久の債権、とみなすことが出来る
- このような考えから、理論株価を計算する方法を、「配当割引モデル」と呼ぶ
- 株主は配当と株の値上がりから利益を得る
- 債権と違って、クーポンが確定していない分、リスクが大きくなる
- ディスカウント・レートは債権よりも大きくなる
- 配当割引モデルは、理論上正しくても、実用上問題がある
- 例)成長著しい会社
- 最終利益を配当せずに、内部留保し、設備投資した方が得
- 数年間は無配
- 成長ステージが終わる5年後くらいからの配当を予想して行けば、理屈上は株価を計算できる
- しかしそんな先の配当は予想できない
- 最終利益を配当せずに、内部留保し、設備投資した方が得
- 電力会社のように安定した成熟企業にしか使えない
- 例)成長著しい会社
<2.フリーキャッシュフロー割引モデル>
- 企業が生み出すキャッシュフローから企業価値を計算して株価を求めるもの
- 事業が稼ぎ出すキャッシュフローから
- 事業を継続する為に必要な投資額と
- 税金を
- 差引いた額=フリーキャッシュフロー(FCF)を計算する
- これは、「その会社に投資している人に帰属するお金」である
- 事業が稼ぎ出すキャッシュフローから
- FCFは「税引き前営業利益」+「減価償却費」ー「設備投資費」ー「運転資本需要」で計算できる
- このお金は、債権者と株主両方に帰属し、これら投資家が自由(フリー)に使ってよいお金で、つまり投資家のもの
- そして企業価値EV(Enterprise Value)は、将来全てのFCFを現在価値に割り引いたもの
- このEVは債権者と株主のもの
- しかし債権者の取り分は、将来の業績とは無関係で、既に決まっている
- 債権者の取り分は、実用上簿価の負債額である
- つまり余っている現金は、借金を返したものと考え、正味の有利子負債(net debt)を計算する
- すると株主の取り分は、「企業価値EV」から「正味の有利子負債(net debt)」を差し引いたものとなる
- これを発行済み株式数で割れば、1株当たりの理論上の価値、つまり理論株価が計算できる
- しかし債権者の取り分は、将来の業績とは無関係で、既に決まっている
なかなか難解だが、フリーキャッシュフロー(FCF)から有利子負債を差引いたものを、現在価値に割り戻してあげれば良く、あとは発行株数で割る事で、一株当たりの理論株価が出る、ということらしい。
とはいえ、次の3つ目の説明で、上記の値を求めることは、誰も出来ない、という言及がある。。(笑)
<3.PERから求める方法>
- 将来のFCFを予想し、適切なディスカウント・レートを決めて、理論株価を計算することは、ぶっちゃけ誰も出来ない
- 実際はどんぶり勘定法が使われる
- 不動産の利回りのように、利益を株価で割ると、株の利回りを計算することが出来る
- これを「益回り(Earning Yield)」と呼ぶ
- 「益回り」 = EPS ÷ 株価
- EPSはEarning Per Shareで1株当たりの利益
- 益回りは市場で大体決まっている
- 日本市場全体、同じセクターの銘柄の平均など
- この式を逆数にすると
- 「PER」=株価 ÷ EPS
- となり、株式投資をしている人にはなじみのある、PERという数字になる
- ※PERとはPrice Earnings Ratioの略で、株価が1株当たり純利益(EPS:Earnings Per Share)の何倍まで買われているか、すなわち1株当たり純利益の何倍の値段が付けられているかを見る投資尺度(https://www.smbcnikko.co.jp/terms/eng/p/E0025.html)
- ※逆数とは与えられた数の分子と分母を入れ替えたもの(https://juken-mikata.net/how-to/mathematics/reciprocal-number.html)
- なお、妥当なPERは市場で決まるとする
- 具体的には同業他社の平均PERを使うなど
- すると、株価は
- 理論株価 = 妥当なPER x 予想EPS
- で決まる
- 1.や2.の方法は美しいが、パラメーターが多すぎるので、実際は3.のどんぶり勘定で計算されることが多い
- キャッシュフロー=利益と仮定
- 一定の利益を永久に稼ぎ続けると仮定
- DCFモデルで計算
- すると、簡単な公式を導ける
- つまり、株式投資とは、将来の利益を当てるゲーム
- 「将来のEPS」が分かれば、「同業他社の平均PER」にかければ、「理論株価」がざっくり計算できる
- 市場価格がそれより高ければ売り、安ければ買えばよいだけ
- もちろんそれは多くのプロが参加する市場全体が間違っていて、自身のどんぶり勘定が正しいと信じなければならないが。。
とのこと。
つまり、「1.配当割引モデル」も「2.フリーキャッシュフロー割引モデル」も理論的には正しいが、現実的には活用できず、実際使えるのは「3.PERから求める方法」のみということらしい(笑)。
しかもその「3.PERから求める方法」はとってもシンプルで、理論株価 = 妥当なPER x 予想EPSであり、妥当なPERは業界標準でほぼ固定値なので、予想EPSがわかりさえすれば、理論株価が出せる、という建付けらしい。。(これだけ長い説明があったのに)なんとシンプルなことやら!(笑)
次回はこの続きを解説したいと思います。
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