#078 なぜ投資のプロはサルに負けるのか(藤沢 和希)-第四章 投資は運か実力か?- ②
昨日に引き続き、第四章「投資は運か実力か?」の、本日はその②を解説したい
以下が第四章の内容となる。本日は4~7について解説したい
1.プロの運用成績は平均するとサル以下
2.ノーベル経済学賞受賞者の作った最高のヘッジファンドが、多額の損失を抱えて破綻
3.プロ同士の壮絶な競争が繰り広げられるマーケット
4.効率的市場仮説という宗教 ←本日
5.効率的市場仮説のパラドクス ←本日
6.損した時は運、儲けた時は実力 ←本日
7.それでもこれからもずっとプロが株価予想を続ける ←本日
■4.効率的市場仮説という宗教
- 市場が「効率的(efficient)」だ、というのは、市場はあらゆる情報をすでに織り込んでいる、という意味
- つまり予測不可能
- 市場に流通している全ての証券には正しい価格がついている
- といった意味
- プロ同士の競争が、市場をどんどん効率的にしている
- しかしながら、もし本当に市場が効率的なら、ファンダメンタル分析や、テクニカル分析は全く意味がないことになる
- 市場が本当に効率的かどうかは、何千という学術論文がでるほど議論が延々と続いている
- 経済学者の中には、市場は完全に効率的だと主張をしている人もおり、「効率的市場仮説」は宗教のようになっている
- そんな学者をからかうジョークがある
- 2人の経済学者が道を歩いている
- 100ドル札が道に落ちている
- 「100ドル札がこんなところに落ちているぞ」と一人が言う
- もう一人が「それは本物じゃないよ。本物の100ドル札が道に落ちていたら、誰かが先に拾っているに違いないから」
- そんな学者をからかうジョークがある
- 効率的な市場では、間違った値段のついた株はすぐに誰かが買ったり売ったりして、一瞬の間に価格がただされる
- よって効率的な市場では、確実に儲けるチャンス、フリーランチは存在しない
- しかしながら、世の中に「完全」なものはない
- 市場だけ「完全」と言い切れるはずがない
- 議論すべきは「どの程度」効率的か、である
とのこと。
「効率的市場仮説」について説明されている。
そもそも市場が「効率的か」というのは議論が別れているとのことではあるが、「完全に」効率的と言い切れないというのが筆者の意見である。
「どの程度」効率的か、というのがポイントだとのことであるので、「多少は」非効率な部分が残っているということなのであろう。。
■5.効率的市場仮説のパラドクス
- ウォーレン・バフェットのバリュー投資とは
- 例えば、本来1,000円の価値がある株が、市場で500円の価格で売られていたら、これを買い、1,000円に上がったところで売れば500円儲かる、という手法
- 株式市場は多数のプロが参加
- 頭のいい人達が、いつも株式市場にミスプライスがないか血眼になって探している
- 彼らのおかげで、1,000円のものが500円で買える機会はほぼない
- ニュースが発表されれば、株価は即座に反応する
- ランダムウォーク仮説
- 株価はファンダメンタルやテクニカルな要因を速やかに反映する
- 株価を大きく動かすのは、まだ市場の誰も知らない新しいニュースが起きた時、という考え
- しかしながら、誰も知らない新しいニュースを前もって知るのは不可能
- 結果的に株価はランダムウォークする
- [参考]Wikipedia: ランダムウォーク : ランダムウォーク(英: random walk)は、次に現れる位置が確率的に無作為(ランダム)に決定される運動である。日本語の別名は酔歩(すいほ)、乱歩(らんぽ)である。グラフなどで視覚的に測定することで観測可能な現象で、このとき運動の様子は一見して不規則なものになる(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%A0%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF#:~:text=%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%A0%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%AF%EF%BC%88%E8%8B%B1%3A%20random%20walk,%E8%A6%8F%E5%89%87%E3%81%AA%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%80%82)
- 逆い言えば、誰も知らない株価に大きな影響を与えるニュースを先に知ることができれば、簡単に儲けることが出来る
- しかしこれはインサイダー取引で、犯罪行為
- しかしながら、もし「効率的市場仮説」を市場参加者みんなが信じたらどうなるか
- 株価の予測は意味がないと信じるので、ファンダメンタル分析やニュースの影響の検討は「無意味」と考える
- なぜならそれらは既に市場がやっているからと考える
- その結果、市場は新しい情報を織り込まなくなり、市場は効率的でなくなってしまう
- このようなパラドックスが起きている
- 「効率的市場仮説」はみなが「効率的市場仮説」を信じないときに正しくなり、みんなが信じると正しくなくなってしまう
- 実際は市場参加者の多くが「効率的市場仮説」を信じていないので、ファンダメンタル分析やテクニカル分析をし、ミスプライスされた株価を探している
- 結果、株価は適正となり、市場はほぼ効率的になっている
とのこと。
本セクションの内容は、大変本質的だ。というか、本書の核心と言っても過言ではないだろう。
つまり、現実としてプロの投資家の多くは、「市場は効率的でない」と信じているからこそ、実際は「市場は『ほぼ』効率的になっている」という状況である。
より多くのプロの投資家が「歪み」を見つけ売買数を増やしてくれればくれるほど、「歪み」がどんどんなくなっていくということだ。
■6.損した時は運、儲けた時は実力
- 上記のように、市場は相当に効率的なので、サルもノーベル賞を受賞する天才も、投資の成績はあまり変わりがない
- 投資とは運に支配される、スロットマシーンやコイン投げのようなゲーム
- 別の観点では、株式市場では、投資のプロである機関投資家やヘッジファンドが多数を占めている
- プロが保有する株を足し合わせると、それは市場そのものになる
- プロが市場に打ち勝つということは、つまりは自分自身に打ち勝つということになる
- 結果として、「プロ全員」が市場に打ち勝つことは論理的に不可能であるということになる
- 投資はかなりの部分が偶然に支配されているゲームである
- にも関わらず、参加している多くの人は、投資の結果を運とは考えない
- 人間には心理学でいう強烈な「自己帰属バイアス」がある
- 「自己帰属バイアス」は、うまく行ったときは自分に帰属させようとするバイアス
- 投資で損したときは運が悪かったと思い、もうけたときは自分の実力だと都合よく思う
とのこと。
「ほぼ」効率的な市場において、「勝つ」ということは、ほぼ運に左右されるゲームの結果だとしている。
にもかかわらず、心理学でいう「自己帰属バイアス」によって、人間は勝った時は「自分の実力」、負けた時は「運のせい」としてしまう、とのこと。
。。株式相場はまさに「心理学」である。
■7.それでもこれからもずっとプロが株価予想を続ける
- 現状プロの成績の平均はサルと変わらない
- だからと言って、プロの投資家を首にして、素人に投資させたらどうなるか
- 最初は素人も同じような運用成績を上げる
- 何故なら、市場が効率的なら、株価は適正なので、割高・割安な銘柄は存在せず、誰が投資しても結果は同じだから
- しかし、じきにプロが勝ち、素人が負け始める
- 何故なら、市場参加者の大半が素人になると、ファンダメンタルをきちんと計算出来る人がいなくなり、結果として「市場の効率性」が損なわれるから
- 最初は素人も同じような運用成績を上げる
- 「市場の効率性」が損なわれると、プロが分析により割高・割安の銘柄を見つけることができるようになる
- つまり、現状はプロが頑張って分析することで、「市場の効率性」が担保される為、プロが勝てない、というように自分で自分の首を絞めている
- 投資のプロは、自分達に給料を払っている人には報いていないが、社会全体には大いに報いている
- 市場が効率的というのは、イコール資金が必要な企業に最適に分配されている、ということ
とのこと。
先ほどとは逆で、投資のプロが投資をしなくなったらどうなるか、という話である。
結果素人が大半になると、ファンダメンタル分析が出来なくなる為、即座に株価が適正な価格に固定されなくなり、市場の効率性が損なわれるから、「歪み」を見つけられる「プロ」が勝つようになる、ということだ。
なんとも、プロの大半が投資を辞めると、プロが勝てるようになる、というのはこれもまた皮肉なパラドックスである。。(笑)
とても興味深い。
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