#080 なぜ投資のプロはサルに負けるのか 第五章 現代ポートフォリオ理論のシュールな結論②
本日は、第五章「現代ポートフォリオ理論のシュールな結論」の、その②を解説したい
以下が第五章の内容となる。本日は4~6について解説する
1.ひとつのかごにすべての卵を入れてはいけないということ
2.ポートフォリオとリスク分散効果
3.ノーベル経済学賞受賞マーコビッツのポートフォリオ選択モデルと有効フロンティア
4.市場ポートフォリオという概念 ←本日
5.金融工学の最大の発明?インデックス・ファンド ←本日
6.アクティブ運用とパッシブ運用 ←本日
7.ヘッジファンドや証券会社にお金を配るインデックス・ファンド
8.インデックス投資でプロの膨大な知識と血のにじむような努力にタダ乗りする
■4.市場ポートフォリオという概念
- ポートフォリオ選択モデル
- もし同じ期待リターンなら、リスクは小さい方がよいと考えるのが合理的な投資家
- よって、ポートフォリオは有効フロンティアから選ぶべきである
- (注:有効フロンティアは#079参照。簡単に言うと「リスク」を「縦軸」、「期待リターン」を「横軸」とすると、プロットされる点がほぼ正比例な曲線となり、この曲線を「有効フロンティア」と呼ぶ)
- しかし、国債や現金などの「リスクのない安全資産」をポートフォリオに組み込むと、驚くべきことが判明
- 安全資産はリスクゼロの箇所に位置する(例:銀行預金の金利)(下記図の一番左の赤丸参照)
- 安全資産から有効フロンティアに接するように直線を引く
- この直接とフロンティアの接点を「接点ポートフォリオ」と呼ぶ(下記図の一番右の赤丸参照)

- 接点ポートフォリオと安全資産を組み合わせれば、この直線状のリスクとリターンを実現できる
- 100%安全資産に投資すれば、リスクはゼロで期待リターンが安全資産のリターンになる
- 100%接点ポートフォリオに投資すれば、当然リスクとリターンは接点ポートフォリオのものと同じになる
- 安全資産に50%、接点ポートフォリオに50%投資すれば、リスクもリターンもちょうど安全資産と接点ポートフォリオの平均値になる(上記図の真ん中の赤丸参照)
- リスク資産だけの組み合わせでは、有効フロンティアの外側に行けなかった
- しかし安全資産を組み入れると、有効フロンティアの外側に飛び出すことができるようになった
- 投資家が、同じ程度のリターンならリスクは小さい方が良いし、同じ程度のリスクならリターンは大きい方がよいと考える場合
- 必ずこの直線上からポートフォリオを作ることになる
- 理由は、直線状のポートフォリオが常に最も優れているから
- これがトービンの導いた答え
- 仮にトヨタ、ソニー、NTTの3つの株式しか存在しないと仮定
- 投資家は太郎、次郎、三郎の3名しかいないと仮定
- この3名が保有する株式を合計すると、トヨタ、ソニー、NTTの時価総額の合計になる
- もし太郎がソニー株の90%を持っていると、次郎と三郎でソニー株の10%を分け合っている
- ソニー株は将来上がるか下がるか
- もし下がるとすると、太郎は大馬鹿者だったことが後に分かる
- もし3人の投資家しかおらず、3つの会社しか存在しない場合
- 時価総額の3分の1以外で株を保有すると、必ず馬鹿を見る人が存在することになる
- もし市場が完全に効率的で、3人の投資家が完全に合理的に行動するならば、誰かが馬鹿であるという状況は起きないはず
- つまりは、3人の持つポートフォリオは、各人が市場全ての銘柄を時価総額の比率で購入したもの以外ありえない
- そして3人は接点ポートフォリオと安全資産以外持たない
- このように考えると、全ての投資家が完全に合理的で、市場が完全に効率的な場合
- 接点ポートフォリオは市場そのものの縮小コピーである「市場ポートフォリオ」でなければいけない
- つまり、「現代ポートフォリオ理論」によれば、「市場ポートフォリオ」こそが万人にとってベストなポートフォリオとなる
- この議論をさらに数学的に進めていくと、マーコビッツと共にノーベル賞を受領したシャープのCAPM理論というファイナンス理論の最高峰にたどり着くことが出来る
とのこと。
なんと、安全資産である国債をポートフォリオに加えることで、リスクゼロという選択肢が現れ、そこから段階的にリスク資産である株式の保有額を増やしていくと、新たな直線が現れ、結果その直線状が最も利益を最大化できるラインである、ということなのだ。
全セクションの理論をあっさり覆してしまった。。(笑)
つまり、ポートフォリオには安全資産を少なくとも一つは入れた方が、同じリスクなら全体的なリターンが上がるという、一見すると逆の結果になるという、大変興味深い結果だ。
ちょっと最後の「市場ポートフォリオ」の説明は分かりにくかったが、恐らく上記の安全資産を少なくとも一つ入れたポートフォリオの内訳として、直線上にある範囲で、なるべく株式を多く取り込んでおいた方が、リターンが最大化されるので、万人にとってベストなポートフォリオだ、と言っていると理解した。
かつ、このなるべく株式を多く取り込んだ点が「接点ポートフォリオ」であり、ここが「市場ポートフォリオ」である、とのことなのだが、まだなぜ「接点ポートフォリオ」が「市場ポートフォリオ」なのか、理解が追い付かない。。
市場に3人、銘柄が3つしかない事例を挙げているが、誰も損をしない箇所は、「接点ポートフォリオ」になり、「接点ポートフォリオ」は市場全体の縮小コピーなので、「接点ポートフォリオ」は「市場ポートフォリオ」だ、ということなのだが。。
恐らく市場の「全ての人」が完全に合理的な行動を取るならば、「接点ポートフォリオ」か「安全資産」しか選択しないので、全員が「接点ポートフォリオ」か「安全資産」を選択するということは、すなわち「市場全体」、つまり「市場ポートフォリオ」と同義である、ということなのであろう(一旦これくらいの理解としておこう(笑))。
■5.金融工学の最大の発明?インデックス・ファンド
- 市場が完全に効率的で、全ての投資家がリスク回避の為完全に合理的に行動するならば、全ての投資家は市場ポートフォリオと安全資産の組み合わせしか持たない
- この前提を認めると、最もよい投資方法は市場全体に投資する事という仰天の結論
- これが現代ポートフォリオ理論の一つの終着点
- では市場全体にはどうやって投資したらよいのか
- インデックス・ファンドという便利な金融商品があり、とても簡単にできる
- 日本ではTOPIXという、東証一部上場企業すべての株式を時価総額の比率で保有する、ポートフォリオの価格の推移をずっと記録し続けているインデックスがある
- TOPIXに連動するインデックス・ファンドは、TOPIXとそっくりの動きをするようにファンド・マネジャーが株式を購入して運用している
- つまりTOPIXインデックス・ファンドを買えば、日本の株式市場そのものを買っていることになる
- 海外の株式の場合
- MSCI-Kokusaiという海外の株式市場をカバーする便利なインデックスがある
- モルガンスタンレー・キャピタル・インターナショナルが開発した、日本を除いた世界の先進国の株式市場全体を表すインデックス
- MSCI-Kokusaiに連動するインデックス・ファンドを買えば、海外の株式市場全体に簡単に投資することができる
- TOPIXインデックス・ファンドとMSCI-Kokusaiインデックス・ファンドを、日本と世界の株式市場の全時価総額の比で組み合わせれば、世界株式市場ポートフォリオに投資することが出来る
- このようなインデックス・ファンドは小学生でも簡単に買える
- あまたのノーベル賞学者を輩出し、世界最高の頭脳が創り出した現代ポートフォリオ理論において
- 最も効率的な投資法は、インデックス・ファンドをなるべく安い手数料と運用報酬で購入して
- 後は何もしないで寝ていればよいということだった
とのこと。
執筆時点は2007年なので、インデックスファンドは上記のような紹介であったが、現在(2021年)だと、米国S&Pも割安な手数料で買えるので、こちらが選択肢になってくるのだろう。
■6.アクティブ運用とパッシブ運用
- 現代ポートフォリオ理論による、市場ポートフォリオとは
- この世に存在する全てのリスク資産を、その時価総額の比率で購入する事
- とはいえ、流動性の問題があり、厳密には市場ポートフォリオを買うことは不可能
- しかし、市場ポートフォリオを、完ぺきではないものの、近似的に再現するのが、世界中で販売されているさまざまなインデックス・ファンド
- この現代ポートフォリオ理論は、ウォール街の考え方と真っ向から対立
- 理由は、ウォール街の売上が激減してしまうから
- 手数料をたくさん稼ぐには、顧客であるファンド・マネジャーに頻繁に、大量に証券を売買してもらうしかない
- インデックス・ファンドのファンド・マネジャーは、証券業界にとってほとんど利益がでない都合の悪い顧客
- ファンドの運用方法:2つ
- 1.アクティブ運用
- 2.パッシブ運用
- 1.アクティブ運用
- アナリストが個別の会社を分析
- ファンド・マネジャーが市場の動向を予測
- 積極的にもうかりそうな会社、産業セクター、国などに投資する
- 金融のプロが英知を結集してマーケットを出し抜く
- 2.パッシブ運用
- あらかじめ決めておいたルールに従って証券を購入
- そのまま放っておく、バイ・アンド・ホールド戦略
- 既存のインデックスそっくりに証券を買うインデックス運用のこと
- 消極的にマーケットと同じパフォーマンスを目指す
- アクティブ・ファンドを平均すると、コストの分だけマーケットに負ける
- 長い目で見たらインデックス・ファンドの方がよい成績を収める
- このことから、現代ポートフォリオ理論の正しさはある程度明らか
- もしそんなにインデックス・ファンドが有利ならば、どうして世界中インデックス・ファンドだらけにならないのか
- なぜなら、人間が心理学でいう「オーバーコンフィデンス・バイアス」(自信過剰)を持っているから
- 数々の心理学の実証研究で、アメリカ人の90%は自分は平均よりも賢いと信じている
- 「オーバーコンフィデンス・バイアス」は専門家の方がより強くなる
- 大学教授の多くは、自分は同僚の他の大学教授よりもかなり頭がいいと信じている
- 多くのファンド・マネジャーやアナリストも、自分は平均より相当に優秀だと信じている
- 自分はマーケットを打ち負かせると思っている
- ファンドに投資する投資家も、自分は他の誰よりも人を見る目があり、優秀なファンド・マネジャーを選別できると思い込んでいる
- なぜなら、人間が心理学でいう「オーバーコンフィデンス・バイアス」(自信過剰)を持っているから
- このような人間のオーバーコンフィデンス・バイアスにより
- 今後もアクティブ・ファンドがどれだけしょぼくれた成績を出し続けたとしても、アクティブ・ファンドの人気が衰えることはない
とのこと。
結論はパッシブ(=インデックス)が運用実績が「手数料分だけ」劣る、ということなのであるが、人の「心理」上、自身は他より優れていると信じている為、アクティブファンドがなくなることはない、とのこと。
なんとも、Factや論理、サイエンス的な結論はインデックス・ファンド勝利なのに、人の心理や「強欲」、「エゴ」、「過信」によって、アクティブ・ファンドがなくなることがない、と言うことなのだ。。
実際私も現在知り合いからアクティブ・ファンドを紹介されており、どうしたものか考えあぐねている。。(笑)
買うとしたら「勉強」の為に買い、損しても「授業料」と思える程度にすべきかと思っている今日この頃です。。(笑)
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